遺産分割の前に財産を処分されてしまった
遺産分割をする前に財産の一部を処分されてしまった場合はどのような取り扱いになるのでしょうか。2018年の相続法改正により、遺産分割前に処分された財産がある場合の処理方法について規定が設けられました。法改正によってどのように変更されたのか解説いたします。
目次
相続法改正前
相続人が複数いる場合、遺産分割によって各相続人が相続する具体的な財産が確定するまで、その遺産は相続人全員の共有になっていました。
遺産の共有
遺産の共有とは、各相続人が法定相続分に応じた持分の割合によって、それぞれの遺産を所有している状態のことを言います。
今までの取り扱い
この共有した状態で、相続人の一人が遺産分割前に、相続財産の一部または全部を売却するなどして処分した場合に、今までの取り扱いではどのように対応されていたのでしょうか。
この場合には、処分された財産は相続財産から逸失し、遺産分割の対象から外れるという取り扱いになっていました。
具体例を見てみましょう。遺言書は無いものとして考えます。
相続人が子A、B、Cの3人のみで、遺産総額3000万円であった場合、子A、B、Cはそれぞれ法に従って遺産分割をすると1人1000万円ずつとなります。ところが、今回は子Aが遺産分割前に勝手にそのうちの900万円を売却により処分してしまったとします。
すると、遺産分割の対象となる財産は2100万円となってしまい、この額を相続分に従って3分の1ずつ分けることとなります。その結果、3人ともそれぞれ700万円を相続します。
Aは先に処分した900万円と併せて実質1600万円を相続したことになり、法改正前では不公平な相続の分配になっていました。
相続法改正で変わった点とは?
あまりの不平等を是正するため、遺産分割前に処分された財産の処理について明文化しました。
2つの規定を明文化
相続法改正により、遺産分割前に処分された財産の処理について、下記2つの規定が設けられました。
- 遺産分割前に遺産に属する財産が処分されていた場合であっても、相続人全員の同意により、当該処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
- 相続人の1人または複数人によって、遺産分割前に遺産に属する財産が処分されたときは、処分した相続人の同意は要しない。
改正前で挙げた事例をここで当てはめてみましょう。
被相続人が死亡した時点で3000万円の財産を有していましたが、子Aはすでに900万円を処分していたので、遺産分割時の遺産は2100万円です。ここまでは改正前と同じです。
改正後は、すでに処分された財産も存在するとみなすことが可能なので、財産の処分をした子Aの同意は不要なため、子BとCが同意すれば、分割対象となる遺産の総額は3000万円です。
これを法定相続分に応じて3等分すると、各1000万円を相続することになります。そして、Aはすでに900万円を取得しているため、遺産分割においてAが実際に取得できる遺産は100万円にとどまることになります。これに対し、BとCは各自1000万円ずつを取得できるというわけです。
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